『借りぐらしのアリエッティ』映画と小説では結末ってどう違う?

借りぐらしのアリエッティ
引用:https://www.ghibli.jp/works/karigurashi/
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2010年公開のスタジオジブリ作品『借りぐらしのアリエッティ』は、米林宏昌さんの初監督作品です。

イギリスの女性作家メアリー・ノートンの児童文学作品「床下の小人たち」が原作ですが、映画では原作と違う点が多いとの声があがっている作品でもあります。

では、どんなところが原作と違うのでしょうか?とても気になるところです。

今回は、映画『借りぐらしのアリエッティ』と原作小説との違いについて考察したいと思います。

では最後までお付き合いください。




『借りぐらしのアリエッティ』原作との違いは?|大抜擢の若手監督

まずは、原作「床下の小人たち」と『借りぐらしのアリエッティ』の違いを比較をする前に、大抜擢された米林宏昌監督について触れておきたいと思います。

米林宏昌(よねばやし ひろまさ)1973年 石川県生まれ
1996年にスタジオジブリに入社し、1997年に『もののけ姫』の動画を担当。その後は『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』では原画を『ゲド戦記』では作画監督補を務めています。愛称は「マロ(麻呂)さん」。

「麻呂はジブリでも絵の上手さでは一、二を争うアニメーター」と鈴木プロデューサーは評価しています。

愛称が示すとおり他のスタッフからの信頼も厚く、後付けの話として『千と千尋の神隠し』のカオナシのモデルといわれています。

https://twitter.com/ghibli_world/status/1281572071126953985?s=21
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宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサーから監督の打診をされたとき"絵コンテも描いたことのない自分がまさか長編アニメーションの監督になんて!"と驚いたようです。

また米林さんの考えでは、そもそも、人に伝えたい何かを持っていなければ監督にはなれないと考えていたとのこと。

自分にはそのような主義・主張がないので務まらない旨を伝えたのですが、宮崎・鈴木両氏から"そのようなものは原作の中にあるから大丈夫"と説得?され引き受けたようです。

監督抜擢にご本人が一番びっくりされている様子が伝わるエピソードですね。

『借りぐらしのアリエッティ』以降の作品としては『思い出のマーニー』、まだ記憶に新しいのはスタジオポノック作品『メアリと魔法の花』も米林宏昌監督作品です。

それにしても、宮崎駿監督・鈴木敏夫プロデューサーの"ひとを見る眼"ってすごいです!



『借りぐらしのアリエッティ』原作との違いは|舞台設定

原作「床下の小人たち」の舞台は1950年代で、イギリスの田舎が舞台とされています。

映画『借りぐらしのアリエッティ』の舞台は、現代の東京都小金井市界隈と公式ホームページで示されています。

そして、アリエッティ一家が暮らしていた家は、青森県平川市の盛美園がモデルといわれています。

 

この作品、企画・脚本は宮崎駿さんがですが、米林宏昌さんが監督を引き受けたときには、すでに舞台の設定をイギリスから日本に変えること、またラストシーンだけは決まったいたようです。

宮崎駿さんが「床下の小人たち」を読んだのは50年ほど前と話していますので、その頃から物語についての構想はお持ちだったのでしょう。

その後「小さなアリエッティ」という題名で高畑勲さんとともに企画が進められていました。

また宮崎駿さんは"アリエッティ"という名前のひびきがとても良いと思っていて、原作のさし絵、特にこの絵が強く印象に残っていると「本へのとびら-岩波少年文庫を語る」で話しています。

では、どんな理由で舞台設定を日本にしたのでしょうか?

このことについて宮崎駿さんは、制作発表記者懇談会時のビデオメッセージで次のように語っています。

今映画を観覧するお客さんは、他国の文化に対して僕らの若いときに比べて、遥かに憧れも好奇心もない。それほど世界に対しての視野が狭くなっている。
人が暮らしてきた歴史やモノづくり、そして自分たちの先祖のことなどについても本当の好奇心を失っていると思う。
だからもう一度、自分たちが住んでいるこの国の古い屋敷やその中身、縁の下や壁の間などを好奇心を持って見直すべき。

とても心に残るメッセージだなと感じました。

 

そして最後には、印象的な言葉で綴っています。

床下の小人たちってのは、ローンで苦しんでるように、人間にたかって生きてる人たちですからね。そういう、生産をするよりも使うほうが多い人生を選んでいる小人っていうのを、自分たちの気持ちの中に引き付けて見てみる。
風前の灯火になりながら生きるっていうのは、まさに自分たちと同じだから。
彼らと同じだから。
そういうつもりでこの映画を作りなさいって思ったわけです。
そうやって見ていくと、随分前の作品なのに、『床下の小人たち』が、今の時代のヒントになると思ったんです。
文春ジブリ文庫 ジブリの教科書16 借りぐらしのアリエッティ より

自分自身の日常生活について考えさせられる部分も多いメッセージですね。

また、舞台を日本に変更すること一つ取ってみても、作り手のこんなに深い思いがあるのだと感じました。



『借りぐらしのアリエッティ』原作との違いは|翔との心の交流

原作でアリエッティと交流する少年は8歳です。『借りぐらしのアリエッティ』の翔は12歳です。

この少年の年齢設定も、大きな相違点のひとつだと思います。

原作の8歳の少年はまだ幼さが残る月齢であり、欲深くてわがままな面が表現されています。

アリエッティの年齢は、原作も映画も14歳で同じです。

原作では、8歳の少年と14歳のアリエッティの心の交流はあまりなく、小人の生活に焦点を当てている描写が多いです。

翔のように、原作の少年も"リウマチ"の病気を抱えてはいましたが、心臓の病気ではありませんでした。

病にかかっていることは同じでも、少年の年齢を引き上げることで、ちょっと大人びた翔の"自分の生命"に対する自暴自棄な一面や、原作と映画両方に出てくる"滅びゆく種族"というキーワードに重みを加える演出になっているように感じます。

原作では、小人は「人間から盗むのではな借りて」生活をしていることについて、8歳の少年とアリエッティが言い合うシーンがあります。

米林監督は、原作でのそんなシーンを、もっと二人が激しく言い合うようなシーンにしたいと考えていたようです。

引用:https://www.ghibli.jp/works/karigurashi/

アリエッティが翔の言葉に対して、震える声で「私たちはそう簡単に滅びたりしないわ」と怒りながら会話するシーンはとても印象的ですよね。

そして、ラストのシーンではアリエッティと翔の心の交流が描かれており、セリフが少ないながらもお互いを思いやる気持ちが表現されていると感じています。

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『借りぐらしのアリエッティ』原作との違いは|父親ポッドの考え方

『借りぐらしのアリエッティ』で、父親ポッドはアリエッティが「借り」に行くことについて、反対するような描写はありません。

しかし、原作で父親はアリエッティが外に出ることをあまり好ましく思っていませんでした。

そのため"外に出たい"と熱望するアリエッティの姿が描かれています。

 

『借りぐらしのアリエッティ』の父親ポッドは、どちらかというと"古風なお父さん"と表現したら良いでしょうか?

寡黙ながらも、心配性のホミリー(アリエッティの母親)に対する配慮があったり、アリエッティの初めての"借り"での角砂糖のことも、ちゃんとアリエッティの気持ちを汲んで接している様子が印象的です。

引用:https://www.ghibli.jp/works/karigurashi/

しっかりと「借り」をして家族を守る父親。
何かとワーキャー、口うるさいながらもアリエッティに家事や裁縫を教える母親。
自分の非により家族を危険にさらしてしまったことを反省する娘。

つつましい生活ながらも心が満たされている日常に、とても素敵な家族だなぁと感じています。



『借りぐらしのアリエッティ』原作との違いは|まとめ

『借りぐらしのアリエッティ』は、舞台設定や翔とアリエッティの関係、そして家族のあり方など、様々な点で原作「床下の小人たち」との違いがありました。
原作を変えて制作する意図は、現代への問題提起などさまざまな作り手の熱い思いがあることもわかりました。
スタジオジブリ作品を観ていると、原作に興味が出てくることもたくさんあります。
今回ご紹介した違いは一部に過ぎません。
原作に触れてふたたび映画を観ると、また違った観点でのメッセージに気づくことができるでしょう。

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