『風立ちぬ』に登場する「黒川」というキャラクターを覚えていますか?
名前を聞いてもピンの来ない方も多いかもしれません。
では、主人公堀越二郎の上司でとても小柄・髪型が印象的なキャラクター、というと思い当たりませんか?
そうです、二郎の実力を認め一見意地悪そうに見えて、何かと二郎の力となってくれたあのキャラクターです。
今回は「黒川」について掘り下げたいと思います。
『風立ちぬ』の黒川|身長は低いがいい人!!モデルが実在?宮崎駿に似てる?
黒川は主人公堀越二郎の入社した会社の上司にあたる人物です。
二郎に入社当日からいきなり取り付け金具の設計を任せるシーンは、テキパキとした仕事できる風の上司ですよね。
しかし、それはすぐに黒川なりの新人しごきであったことがわかります。
黒川は、すぐに二郎の才能を見抜きました。
そして、二郎とともに身体を張って戦闘機の開発にあたります。
その後、二郎が特高に目をつけられるようになってからは、彼をかくまい自宅の離れに住まわせます。
特高に目をつけられるようになったのは、軽井沢でのカストルプとの交流がきっかけです。
そして黒川は、のちに二郎と菜穂子の結婚と新婚生活を支える重要な存在となります。
彼はとても小柄で、本を開いた状態のような髪型は歩くたびに大きく揺れ、その姿はとてもコミカルで愛くるしいものです。
『となりのトトロ』の「まっくろくろすけ」や『もののけ姫』の「こだま」のような、ジブリの宮崎駿監督作品には、独特の可愛らしい不思議なキャラクターが出てきますよね。
『風立ちぬ』にはそんな不思議キャラが出てこないこともあり、作中では黒川の愛くるしさが際立っているように思います。
では、この黒川というキャラクターはいったい誰をモデルにして描かれているのでしょうか。
それは『風立ちぬ』のベースとなった作品、堀辰雄の小説「菜穂子」に登場する黒川圭介という人物といわれています。
堀辰雄の小説「菜穂子」に登場する黒川圭介は、古い屋敷に住み菜穂子よりも低い身長の人物でした。
特徴が宮﨑駿監督の『風立ちぬ』と似ていますね。
また、宮﨑駿は黒川に自分自身を投影していて、黒川の声優をやりたくなってしまったという話もあるようですよ。
黒川の愛くるしさは自分自身が投影されている愛着から来るのかもしれませんね。
『風立ちぬ』黒川とその奥さんのキャスト声優は?
前述のように、宮崎駿監督自身も演じたかったという黒川は誰が声優を演じているのでしょうか。
それは俳優の西村まさ彦さんです。
ドラマ『古畑任三郎』での今泉役のイメージが強い俳優さんですが、黒川の堅物ながらも少しコミカルなキャラクターを見事に演じていらっしゃいます。
西村まさ彦さんのスタジオジブリ作品のご出演は、1997年公開『もののけ姫』の甲六役が最初でした。
そのあとは、2002年公開の短編アニメ『ギブリーズ episode2』で主人公の野中くん役を務めました。
そして今回の『風立ちぬ』で3作品目ということになります。
毎回イメージの違うキャラクターを見事に演じ、いい意味で"キャスト声優が誰なのかが気にならない"俳優さんだなぁと私は感じています。
一方、黒川夫人の声を演じたのは日本を代表する女優である大竹しのぶさんです。
大竹しのぶさんも、ほかのジブリ作品にご出演されています。
2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』では主人公アリエッティの母親役であるホミリーのキャスト声優を務めました。
また、かつてスタジオジブリでご活躍されていた米林宏昌監督(スタジオポノック)の2017年公開『メアリと魔女の花』では、主人公メアリの叔母、シャーロット役でキャスト声優を務め、その後もさまざまな劇場用アニメーション声優でご活躍です。
大竹しのぶさんは、二郎と菜穂子の結婚式シーンの口上の言い回しを何パターンも準備して収録に臨んだのだそうです。
さすが!と感じるエピソードですね。
私は、今回の黒川の奥さん役について、作品それぞれの時代設定もありますが、これまでのジブリ作品で演じてきたキャラクターとは違ったイメージで、まさに大女優!だと感じました。
『風立ちぬ』黒川邸|あの家にもモデルがあった!場所はどこ?
『風立ちぬ』で二郎と菜穂子は黒川の家の離れにて新婚生活を送ります。
その古き良き邸宅の佇まいは美しく、とても味わいがあります。
その黒川邸のモデルはどこにあるのでしょう。
宮﨑駿監督は、「離れの建物は社員旅行で行った熊本の小天の部屋を見て使おうと」と語っており、それは熊本県玉名市天水町小天にある、夏目漱石の小説『草枕』の舞台である前田家別邸であるとされています。
宮﨑駿監督自身、夏目漱石の『草枕』は大好きで、何度も繰り返し読む愛読書なんだとか。
自身の愛読書の舞台を自分の作品でも登場させる、というのはクリエイターならではのエピソードでとても素敵ですよね。
『風立ちぬ』黒川夫妻が執り行った料理何もない結婚式。その口上は?
『風立ちぬ』で黒川が登場するシーンとしてとても印象的なのは、二郎と菜穂子の結婚式を黒川と黒川夫人が執り行うシーンですよね。
そのシーンで黒川夫人の口上は独特で、それは古くからその地方で使われている伝統的なものなのかと思った方も多いのではないでしょうか。
実はこの口上は、宮崎駿監督が作ったオリジナルのようです。
その口上とは、以下の通りです。
黒川夫人「申す 七珍万宝 投げ捨てて 身ひとつにて山を下りし 見目麗しき乙女なり いかに。」
黒川「申す 雨露しのぐ屋根もなく 鈍感愚物の男なり。それでもよければ お入りください。」
黒川夫人「いざ 夫婦の契り とこしなえ。」
現代語に訳すと、このようになると思われます。
黒川夫人「申し上げます。財産全てを投げ捨てて、身体ひとつで山を下りてきた美しい乙女です。いかがでしょうか。」
黒川「申し上げます。家ももたないぼけっとした男ですが、それでもよければお入りください。」
黒川夫人「さあ、永遠の夫婦の契りを交わしましょう。」
料理も見守る家族もいない結婚式ですが、この口上には4人の愛が溢れています。
一見すると即席のようにみえますが"結婚する"とは、このように相手を思う溢れ出る気持ちがあれば、記憶に残る素晴らしいものになるのだ!と、私は涙しながら観たシーンです。
黒川夫妻が即興で作った口上には二郎と菜穂子の個性がしっかりと詰まっていて、手作りの結婚式らしい暖かで感動的なものとなりました。
『風立ちぬ』黒川についてのまとめ
『風立ちぬ』の黒川について、いかがだったでしょうか。
二郎の才能をいち早く見抜き、彼を特高からかくまい、菜穂子との新婚生活を支えた黒川。
二郎の人生の影の立役者といっても過言ではないと思います。
堅物な性格ながら愛くるしいビジュアルとキャラクターが相まって、黒川が登場するシーンはどれもどこか笑顔になれます。
黒川の存在は、シリアスな時代背景とテーマを扱うこの作品全体の影の立役者であるともいえるのではないでしょうか。
そんな黒川の心情を汲み取りながら『風立ちぬ』を観ると、宮﨑駿監督のキャラクターに込めた愛情を感じることができるかもしれませんね。
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