2006年公開の『ゲド戦記』に登場する悪役の"クモ"は、ホラー映画並みの怖さがあり、子どもだけではなく大人までトラウマになると話題です。
たしかに、スタジオジブリ作品ではあまり登場しないレベルの恐ろしさと不気味さを醸し出しています。
では、いったい"クモ"はなぜ怖いと言われているのでしょうか?
それは、あるシーンでのクモの変貌ぶりが、とても記憶に残るトラウマレベルの怖さだからなのではないかと思います。
今回は、怖い怖いと話題の"クモ"について、キャスト声優や気になる性別、なぜここまでの怖さで演出されているのか?、そしてハイタカとのかつての関係などを考察していきたいと思います。
ゲド戦記のクモが怖い!キャスト声優は、男性?女性?
クモのキャスト声優は、田中裕子(たなか ゆうこ)さんです。
声を聞いた限りでは、田中裕子さんだとは気づかないかもしれません。それに、男性俳優がキャスト声優を務めている?と思われた方もいるのではないでしょうか?
田中裕子さんといえば、世界68か国の国と地域で放送された1983年NHK連続テレビ小説『おしん』のヒロイン田倉しん役を務めたことで一躍世界的に有名な女優さんとなりました。
当時、実力派の女優さんだなぁと感じながらドラマを観ていたことを思い出します。また演技以外でのご出演番組を拝見しても、着飾ることなくいつも自然体な姿がとても魅力的だと感じていました。
また最近では、2019年のNHK連続テレビ小説『なつぞら』のヒロイン奥原なつが通う、産婦人科の主治医 高橋秀子役でご出演されたことも、記憶に新しいところですね。
スタジオジブリ作品では、1997年公開の映画『もののけ姫』のエボシ御前役でご出演されています。
いつもジブリ作品を観ていて感じるのですが、登場人物にピッタリな声の人を探すのが上手だなぁと勝手に感心しています。
田中裕子さんの声もクモにピッタシ!
劇中でクモが初めて登場するシーンではビジュアルよりも、その声にドキッとしたほどです。
クモの世界観を田中裕子さんの声で、さらに広げてくれているとても印象的な声ですよね。
また、アレンにハジアを自ら飲ませるように語りかけ、真の名(まことのな)を言わせるシーンでも、その声が効果を生み出しています。
ゲド戦記のクモが怖い!性別は?
ところで、クモは男性でしょうか?女性でしょうか?
そりゃ女性でしょ!と思いながらご覧になっていた方も多いのではないでしょうか?
実は、クモは男性なのです。原作でも男性として描かれています。
キャスト声優が田中裕子さんであること、そしてクモの衣装(ワンピースにパンプス、それにネイルもキレイにお手入れされている)をみて、女性と思われることが多いのだと考えられます。
テナーを捕らえたシーンでは、テナーに対し「女はうるさくて敵わん」と語っていたり、そのほかいくつかの場面で、自分のことを"俺"と語っていることから、男性で間違いなしです。
なぜ?クモのキャラ設定が中性的に描かれているのか?
では、なぜこのような中性的な人物として描かれたのでしょうか?
映画『ゲド戦記』のテーマは"光と影"であり、それは"陰と陽"や"表と裏"など、人間界には当然のごとく存在するものですし、日本古来から語られてきたことでもあります。だからこそ深いテーマですし、この映画『ゲド戦記』の評価が別れるところにも繋がるのでは?と感じています。
この深いテーマを描いていくにあたり、宮崎吾朗監督はクモの"生命に対する執着"を性別で分けることなく、逆に中性的なキャラクターとして描くことで、"性別に関係なく、人間そのものが持つ執着"として描きたかったのではないかと考えてみるとどうでしょう。
これは、私の推測に過ぎませんが、長生きしたい!と感じるのは女性だけでも、男性だけでもなく、全ての人々が考えていることでもあります。
見た目は女性のようでも、実は男性であるというクモの設定が"命に対する全ての人間の欲望"として、描かれているように感じます。
この"光と影"という深いテーマは、人間そのものを描いていることにもなるので、子どもとこのテーマについて考えようとするとき、『ゲド戦記』は、非常によくストーリーが出来ていていると感じています。
ちなみに、小学校低学年の我が家の子どもと『ゲド戦記』を一緒に観たとき、
「クモって女だと思う?男だと思う?」と聞いてみたら、
「そんな男か女かなんて考えられないくらい、怖い」と・・・
なるほど!子どもは、恐ろしさが先に立つと、性別など関係ないんだなぁ、と気付かされました。
#自分の中にもう一人自分がいるみたいなんだ。 pic.twitter.com/nK1UzXPOa8
— ゲド戦記厳選名言画像集 (@gedo_pc) June 2, 2017
しかし、ときが経ち、成長した子どもが、アレンのような"自分の中にある表と裏(光と影)"に気づいてくることでしょう。そんなときには、またジブリループで『ゲド戦記』を観て、自分の心と対話をし、大きく心を育んでほしいものです。
ゲド戦記のクモが怖い!「死んだ死んだ」のシーンはここ!
ハイタカに復讐する機会を狙っていたクモは、手下のウサギを使い、テナーを人質にとり、アレンを真の名で操り、ハイタカを自分のアジトに向かわせるよう仕向けます。
しかし結果的に、この行為がクモにとっては命を落とすきっかけになってしまうわけですが・・・
アレンの魔法の剣にやられてしまい、完全に劣勢となったクモが徐々に豹変していきます。
「死んだ、死んだ、かわいそう」
私が最初に作品を見た時は、もうあまりの変わりように、セリフも頭に入ってこないほどでした(汗)。
テヌーの首を絞めながら腕がブヨブヨに膨れていくさまも、夢に出てきそうな恐ろしさです。
それまではスレンダーなスタイルだったのに、体格はもうすっかり男。
これまで、自分で自分に掛けていた魔法のすごさが伝わるほどの変貌ぶり。
#ゲド戦記
ジブリで一番怖いキャラクターはゲド戦記のクモ pic.twitter.com/s59PUd6YUG— 狸 (@tanuki_chAngE) June 25, 2019
そして、最後の最後は、これ。
もはや、劇中序盤のクモは思い出せないほどです。
これじゃあ、トラウマになるのも、うなずけますね。
ゲド戦記のクモが怖い!クモとハイタカは、かつて・・・
クモとハイタカは、かつて共に学んだ仲であり、互いに優秀な魔法使いでした。
クモはお金と引き換えに、死者の世界である黄泉の国(よみのくに)から"死んだ人を蘇らせる"という、いわゆる"生死両界を分かつ扉を開く"禁断の魔法を使って、自分の永遠の命を得ようとしていましたが、かつてはハイタカも、クモと同じ行いに手を染めていました。
しかしハイタカは、その過ちに気づいたことで、クモを改心させようと黄泉の国まで行きましたが、そのことが逆に恨みを買い、ずっと復讐すべく狙われていたわけです。
一度、悪事に手を染めていたハイタカが、自分の過ちに気づき、その後は魔法を使わない様にしていることや"限りある命だからこそ生きる意味がある"というメッセージは、ぜひ子どもに伝えたいメッセージですね。
今の子どもたちは、情報量が多いということもありますが、昔に比べると何かと「正解」を求めたがり、失敗を嫌がることが多い様に感じています。
『ゲド戦記』では、ハイタカは最初から英雄だったわけではなく、一度失敗しているわけです。この過去の過ち(失敗)を今に生かせているからこそ大賢人となったのだと感じています。
まとめ
クモの豹変ぶりは、やはりトラウマ級の恐ろしさでしたね。
この『ゲド戦記』は、スタジオジブリ作品としては、評価が分かれる作品といわれているようです。
今回は悪役のクモをキーにして考察してみましたが、テーマを考えたらとても深い作品であることがわかりますし、命についてこれほどのメッセージを伝えてくれる作品はとても有難いと感じています。
親から子へ言葉で伝えられることはとても少ないもの。子どもと一緒に『ゲド戦記』を観て"生と死"をテーマに考える機会をもらえたことを嬉しいと感じています。
思春期の子どもに何も声をかけられない自分がいたら「一緒に『ゲド戦記』観ない?」と誘ってみたいと思います。
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